遠隔救命のためのポータブル超音波診療RT


救急救命士法の制定やAEDの普及などが示すように,人命救助には迅速性が求められる.

交通事故や大規模震災などで高緊急度外傷を受けると,しばしば緊張性気胸や腹腔内出血等によりショック状態を呈することが知られている.この種の外傷初期段階では,診断箇所を体表4部位に絞り,ショックの原因となる血液貯留を探索する迅速簡易超音波診断法(Focused Assessment with Sonography for Trauma; FAST)が有効である.そのため,現場に居合わせた専門知識のない人でも,患者への装着が容易,かつ体腔内の実時間映像を遠隔地にいる医師に伝送できるポータブル型超音波診療システムが実現されれば,外傷患者の早期診療支援が可能となる.


図1 研究背景と方針

  

これまでに,病院内施設に配備された遠隔操作型超音波診断ロボットの開発例は報告されているが,一般人による持ち運びや外界環境下における活用については全く考慮されていなかった.そこで本研究では,ポータブルかつ遠隔操作が可能な小型超音波診療ロボット(以下,FASTele)を開発した.

FASTを行う上で,以下の機能が必要である. ①FAST 診断する4 箇所へのプローブ押当てが可能,②患者の体動・体型差に適応可能,③小型かつポータブル,④現場に居合わせた専門知識のない人による搬送・装着が可能.ここで,②については,患者の「荒い呼吸」や「咳き込み」などに伴う体動が発生した場合にも,装着状態が乱れない工夫が必要となる.そこで我々は,ベルトを用いてFASTeleを患者に直接固定することで,患者の体格や体動によらず装着かつ固定可能とした.

また,③については,小型軽量性を達成するために,最小限の駆動自由度とした.すなわち,プローブ位置調整のための頭尾方向の並進,プローブ押し当て角度調整のためのピッチング,ローリングの3自由度とし,FASTele装着後,遠隔地にいる医師が診断に足るエコー映像を得るために,これらを駆動することを可能とした.一方,現場に居合わせた専門知識のない人でもベルトの締付け方でプローブ押込み量を調節できるように,体表面法線方向に圧縮ばねを設置し,体表面法線方向にも自由度を設ける構成とした.すなわち,体表面法線方向に機械ばねを用いて,プローブを患者体表に押し付けることで,適切な押しつけ力を得る.これにより,アクチュエータの数を削減,縦20[mm],横200[mm],高さ120[mm]の小型かつ軽量ポータブル装置を実現した.


図2 開発したFASTeleのハードウエア(寸法と自由度)


発表文献

  • 朝山智史,伊藤慶一郎,鶴田功一,菅野重樹,中村京太,岩田浩康,「体幹設置型遠隔診断エコーデバイスにおける人体装着機構に応じた装着容易性と安定性の比較評価」,計測自動制御学会論文集SI特集号,vol.49, no.1, pp., pp.86-92 , 2013
  • 伊藤慶一郎,鶴田功一,中村京太,竹内良平,菅野重樹,岩田浩康,「体幹装着型遠隔超音波診断システムの世界初の具現化に向けた改良と移動体搬送下における診断試験結果の報告」,消研輯報,消防庁 消防研究センター,vol.65,pp.95-103 , 2013
  • K. ITO, T. ASAYAMA S. SUGANO, H. IWATA:“A Blood Flow Measurement Robotic System: Ultrasound Visual Serving Algorithms under Pulsation and Displacement of an Artery,”Journal of Robotics and Mechatronics,vol.24,no.5,pp.773-781,2012
  • 伊藤慶一郎,菅野重樹,中村京太,竹内良平,岩田浩康:内出血患者の救命を支援する迅速簡易超音波検査のための体幹装着型ロボットシステム,バイオメカニズム21,pp.43-53,2012
  • K.ITO, S.SUGANO, H.IWATA: “Noninvasive Internal Bleeding Detection Method by Measuring Blood Flow under Ultrasound Cross-Section Image,” Proc. of IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems (IROS’12), pp.4131-4136, Oct., 2012
  • 朝山智史,伊藤慶一郎,鶴田功一,菅野重樹,中村京太,岩田浩康,「移動体下における体幹装着型遠隔診断エコーデバイスの装着性及びエコー画質の評価」,計測自動制御学会システムインテグレーション部門学術講演会SI2011講演論文集,paper no. 2H2-2,京都,2011年12月
  • K.ITO, T.ASAYAMA, S.SUGANO, H.IWATA: “Measurement Algorithms of Cross-section Area and Blood Speed for Noninvasive Blood Flow Measurement System,” Proc. of IEEE Int. Conf. on Robotics and Biomimetics (ROBIO’ 11), pp.263-268,Thailand,Dec., 2011
  • K.ITO, S.SUGANO, H.IWATA: “Wearable Echography Robot for Trauma Patient,” Proc. of IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems (IROS’10), pp.4794-4799, Taipei, Taiwan, Oct.18-22, 2010
  • K.ITO, S.SUGANO, H.IWATA: “Portable and Attachable Tele-Echography Robot System: FASTele,” Proc. of the 32nd Annual Int. Conf. of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC2010), pp.487-490, Buenos Aires, Argentine, Aug.31-Sep.4, 2010