半側空間無視治療のための視覚誘導システム


<研究目的>

図 1 半側空間無視

 半側空間無視(unilateral spatial neglect;以降、USNという)とは、脳卒中患者に併発し、大脳半球病巣と反対側の刺激に対して、反応すること、その方向を向くことが障害される病態である。視力障害は認められないのにもかかわらず、半側の空間を認識できなくなり、文字通り半側の空間を無視する症状を示す(Fig.1)。例えば、食事の際に左側の品物を食べ残す、車椅子とベッドとの移乗で左側のブレーキをかけ忘れて転倒する、移動時に左側の物にぶつかる、などの無視症状を呈し、歩行や日常生活動作の自立度を高めるリハビリテーションの阻害因子となる。現在、USNは注意の病的な偏りにより生じると考えられている。特に、焦点を当てているものから注意を離す「解放」、新しい位置に注意を移動する「移動」、新奇なターゲットもしくは新しい位置に注意を焦点づける「固定」という潜在的な注意の定位に含まれる3つの機能のうち、非無視側の焦点から注意を「解放」すること、無視側の方向へ注意を「移動」することにUSN患者は問題を抱えているとされている。

しかしながら、現状では注意の「解放」と「移動」を同時に促すという支援方法に関しては提案されていない。そこで我々は、USN患者に対し、非無視側に設置した情報を徐々にブラックアウトしていき,見える領域を無視側へ拡大させていく映像を呈示し、「解放」と「移動」という両機能を支援しつつ無視側への注意を促すことで、リハビリテーション効率を向上させる新しいシステムを開発した。


<研究内容>

本システムは、非無視側の視覚刺激に注意が引き付けられている状態で視覚刺激が徐々にブラックアウトすることにより、これまで注意が引き付けられていた視覚刺激から注意を「解放」することができる上に、目新しい刺激が無視側で徐々に現れることにより無視側へ注意を「移動」することが出来るようになる。具体的には、①HMDの上部にWebカメラを取り付けることで患者前方の実在刺激に加工処理を施した映像を提示するシステム(movie1)、②プロジェクターとスクリーンを用いることでPC内の刺激画像に加工処理を施した映像を提示するシステム(movie2)で実現した。


動画1 半側空間無視治療支援のためのRT(HMDタイプ)


動画2 半側空間無視治療支援のためのRT(スクリーンタイプ)


<期待される成果>

医療施設で半側空間無視患者を対象に臨床試験を実施しており、半側空間無視と注意機能の改善に寄与し得ることを臨床研究および認知神経科学的観点から明らかにすることを目指している。将来的には、ベッドサイドでの使用により、生活動作の自立度を高めるリハビリテーション開始前に半側空間無視を軽減させ、脳卒中リハビリテーション全体の効率向上が期待される。


発表文献

  • 竹内貴哉,安田和弘,佐藤勇起,後濱龍太,黒木洋美,岩田浩康,「注意の解放と移動を促す視覚誘導型 USN治療支援システムの試作」,日本機械学会ロボティクスメカトロニクス講演会2014論文集 (Robomec'14),paper no. 3P2-G02,2014年5月