ナノシート電子化応用


<研究目的>


近年のウェアラブルデバイスの市場規模拡大に伴い,デバイスのウェアラブル化へのニーズに応えうる技術の進歩が求められています.そこで私たちは,デバイスの基材として“ナノシート”と呼ばれる厚さ数十~数百ナノメートルの高分子超薄膜に着目しました.ナノシートは,廉価に製膜可能であり,生体適合性が高いため,電子化することによって,“ウェアラブル”のさらに一歩先である“皮膚一体型”のデバイスが実現可能であると考え,ナノシート上にエレクトロニクスを実装する取組みを行っています.


<研究成果>


― ナノシート電子化の基盤技術

概要

ナノシートを皮膚貼付型電子デバイスとして応用するためには,生体貼付性・適合性が高くかつ低コストでシンプルな手法によって製作可能である事が求められます.そこで,私たちはナノシート上への印刷による金属配線の形成手法および,電子素子の実装手法を構築しました.また,共同研究先を中心にナノシートの生体への貼付性を検証しました.

まず,ナノシート上にインクジェット印刷あるいはスクリーン印刷のような簡便な印刷手法によって,金属配線を形成する手法を構築しました.インクジェット印刷の場合,ナノシート上に直接配線を印刷してしまうと,インクを弾いてしまいます.そこで,ナノシート表面にカチオン性アクリル共重合体ポリマーをコーティングすることによって,インク受容層を形成し,ナノシート上への高精度な配線形成を可能にしました.

次に,半田等の導電性接着剤を用いずにナノシート上の配線上に電子素子を実装する手法を構築しました.配線上の適切な位置に配置された電子素子に対して,ナノシートを上からかぶせ,ナノシート同士で電子素子をラミネートすることによって,ナノシートが持つ高い密着性により,電子素子が適切な位置で固定され,電気的接続を担保できます.また,電子素子と印刷配線との接触抵抗も低い値で接続する事が出来ることを確認しました.これらのデバイス製作手法を用いることによって,製作プロセスの中でクリーンルームや,熱処理が不要となるため,薄膜デバイスの低コスト化に繋がります.

また,皮膚表面を皮溝まで模したファントムを開発し,ナノシートを皮膚表面に貼付した際の貼付性についての検証を行い,電子デバイスを皮膚表面に貼付した際の密着性及び相互に与える影響について検討を進めています.


図1. ナノシート電子化の基盤技術について
(A) ナノシートの各製作プロセスにおける層構造断面 (B) インクジェット印刷によって配線を実装したナノシートを皮膚上に貼付した際の外観 (C) ナノシート同士によるラミネートで表面実装素子(LED)を固定・実装した様子 (D) ナノシート上に配線およびLEDを実装し,皮膚上に貼付後電源を接続しLEDを点灯させている様子


出典

  • 岡本麻鈴,黒飛みずほ,山岸健人,村田篤,藤枝俊宣,岩瀬英治,岩田浩康,武岡真司,「インクジェット印刷による高分子ナノシート上への金属配線の形成」,日本化学学会 第95回春季年会,2A6-05,2015年3月
  • 藤枝俊宣,岡本麻鈴,山岸健人,村田篤,武岡真司,岩瀬英治,黒飛みずほ,岩田浩康,「エラストマーからなる高分子ナノシートの開発とウェアラブルエレクトロニクスへの応用」,高分子学会 第64回高分子学会年次大会,3F03,2015年5月
  • Marin Okamoto, Toshinori Fujie, Mizuho Kurotobi, Kento Yamagishi, Atsushi Murata, Eiji Iwase, Hiroyasu Iwata, Shinji Takeoka,“Ultra-Conformable Polymer Nanosheets with Inkjet-Printed Electric Circuits”,Proceeding of the 2015 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (PACIFICHEM 2015), MLTS 759, Dec. 2015
  • 鈴木智大,藤枝俊宣,武岡真司,岩田浩康,岩瀬英治,「人工皮膚モデルを用いた高分子ナノ薄膜の貼付性評価」,日本機械学会 関東学生会 第55回学生員卒業研究発表講演会,815,2016年3月
  • 菅野純貴,藤枝俊宣,武岡真司,岩田浩康,岩瀬英治,「高分子超薄膜上配線と電子素子の直接接合による電気的接続の評価」,日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会2016,2P2-20a4,2016年6月
  • 岡本麻鈴,武岡真司,岩瀬英治,岩田浩康,藤枝俊宣,「多層電子回路基板としての応用に向けた高分子薄膜の絶縁性能評価」,高分子学会 第65回高分子学会年次大会,1G11,2016年9月
  • Marin Okamoto, Mizuho Kurotobi, Shinji Takeoka, Junki Sugano, Eiji Iwase, Hiroyasu Iwata, Toshinori Fujie,“Sandwich fixation of electronic elements using free-standing elastomeric nanosheets for low-temperature device processes”,Journal of Materials Chemistry C, Vol. 5, pp. 1321-1327, Feb. 2017
  • 岡本麻鈴,隼田大輝,菅野純貴,岩瀬英治,岩田浩康,藤枝俊宣,「皮膚貼付型エレクトロニクスの応用に向けたエラストマー薄膜による電子素子封止技術の開発」,応用物理学会 第64回応用物理学会春季学術講演会,15p-416-5,2017年3月
  • 9. 関口雄斗,藤枝俊宣,岩田浩康,岩瀬英治,「高分子ナノシートの湿潤・乾燥による凹凸形状への追従性の評価」,日本機械学会 関東学生会 第56回学生員卒業研究発表講演会,1301,2017年3月



― ナノシートを用いたRFIDタグ

概要

ナノシート上への簡便な印刷手法及びラミネートによる電子素子の実装手法を用いて,非接触ICカードなどに代表されるRFIDタグの開発を行いました.これにより,皮膚密着型のウェアラブルチケットとして,イベント会場等への応用が期待出来ます.また,食品等に貼付することでトレーサビリティへの応用なども期待されます.

プリント配線を用いた場合,配線抵抗がバルク配線に比べて大きいため,アンテナの設計において重要なパラメータである共振周波数およびクオリティファクタの調節が難しく,理想的な値に対して非常に低くなってしまうという問題がありました.アンテナの動作性を高めるためには,インダクタンスを高く,配線抵抗を低くすることが重要ですが,これら二つのパラメータはお互いトレードオフの関係になります.そこで,アンテナ配線の配線幅,配線間隔,半径,巻き数の4つのパラメータを調節し,これらのトレードオフの最適なバランスを見つけ出し,最も動作性が高くなるようなアンテナの設計手法を構築しました.この手法により,ナノシート上へのプリント配線でも動作可能なアンテナ実装を可能にしました.

また,本研究によって構築したアンテナの設計手法は,配線の種類や実装方法によらずに有用な設計方法であることが示唆されているため,薄膜デバイスにRFIDを実装する上では,私たちの使用するナノシート電子化以外の材料においても汎用性がある事が期待されます.


図2. ナノシート上へのRFIDタグの実装
(A) ナノシート上にRFIDを実装し,皮膚密着型電子チケットとして応用した際の使用イメージ (B) アンテナ及びLEDを実装し,ICリーダ上にかざした際に電磁誘導によってLEDが点灯している様子 (C) アンテナ及びICを実装した様子 (D) ナノシート上への印刷配線を用いた場合に,導出した動作条件に対して実際の動作有無がどの程度条件に一致しているかを検証した実験結果


出典

  • 隼田大輝,岩瀬英治,藤枝俊宣,武岡真司,岩田浩康,「高分子超薄膜に廉価に実装可能なRFIDの設計」,日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会2016,1A1-13a2,2016年6月
  • Hiroki Hayata, Marin Okamoto, Shinji Takeoka, Eiji Iwase, Toshinori Fujie, Hiroyasu Iwata,“Development of Inexpensive Skin Adhesive Electronic Device - RFID Tag Implementation on Ultrathin Polymer Film -”,International Conference on Flexible and Printed Electronics (ICFPE 2016), O5-4, Sep. 2016
  • 3. Hiroki Hayata, Marin Okamoto, Shinji Takeoka, Eiji Iwase, Toshinori Fujie, Hiroyasu Iwata,“Printed high-frequency RF identification antenna on ultrathin polymer film by simple production process for soft-surface adhesive device”,Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 56, No. 5S2, pp. 05EC01, May 2017
  • 4. Hiroki Hayata, Marin Okamoto, Shinji Takeoka, Eiji Iwase, Toshinori Fujie, Hiroyasu Iwata,“Effect of Living Body on Performance of RF Identifier Antenna Printed on Ultrathin Polymer Film”,8th International Conference on Flexible and Printed Electronics(ICFPE2017), Sep. 4-7, 2017



― ナノシートを用いたバッテリレスpH測定デバイス

概要

いつでも,どこでも,手軽に肌の健康状態や汗の情報を知ることができ, かつ装着感のない絆創膏のような皮膚密着型のウェアラブルデバイスの研究開発を行っております. ユーザが本デバイスを皮膚上に貼り付けて, スマートフォンをかざすだけで, 肌の健康状態を可視化できるようにデザインしております. これにより, 皮膚疾患の予防や熱中症の予防への応用が期待されます.

肌の健康状態を表す水素イオン濃度(pH)などの化学データおよび体表温度などの物理的データを経時的にスマートフォンからモニタリングするためのシステム設計を行った. 皮膚上に電子デバイスを実装する場合, 1次や2次電池を用いるとナノシートの耐荷重を超えるため, 接着剤フリーで装着感なく貼付することが困難という問題がありました. そこで, RFIDの給電機能で得られる電力のみで動作可能なバッテリレスかつ省電力なpHセンサ(ISFET)に適した回路を設計しました. これにより, スマートフォンで手軽に健康状態を見える化し, ユーザに新たな”気づき”を与えられる健康管理ウェアラブルデバイスの基盤を構築しました.

また,本研究によって構築した皮膚密着型デバイスは,検知するイオンによらずに有用な設計方法であることが示唆されているため,皮膚密着型デバイスに他センサを実装する場合においても汎用性がある事が期待されます.


図3. ナノシートを用いたバッテリレスpH測定デバイスについて


出典

  • 宮林駿,隼田大輝,岩瀬英治,藤枝俊宣,武岡真司,大橋啓之,佐藤慎,黒岩繁樹,門間聰之,逢坂哲彌,多和田雅師,戸川望,片岡孝介,朝日透,岩田浩康,「NFC給電のみで動作可能なpH測定デバイスの提案」,日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会2017,1A1-L10,2017年5月
  • 2. Shun Miyabayashi, Hiroki Hayata, Eiji Iwase, Toshinori Fujie, Hiroyasu Iwata,“Epidermal pH-sensor capable of operating only with NFC energy harvesting” ,8th International Conference on Flexible and Printed Electronics(ICFPE2017), Sep. 4-7, 2017