歩行リハビリのための人工筋肉駆動型背屈支援 RT


<研究目的>

厚生労働省が発表した平成23年の「患者調査の概況」によると,脳血管疾患(脳出血や脳梗塞など)の総患者数は123万5,000人(男性61万6,000人,女性62万人)と非常に多くなっている.その後遺症として,半身が麻痺してしまい,歩行周期に麻痺側の足首を上方に向けることができない尖足が生じることがある.尖足は転倒の原因や膝関節の負担となるため,リハビリを安全で効率的に行うために効果的に治療する必要性が高い.

図 1 背屈と底屈

 従来の短下肢装具では尖足を防ぐために,足関節の固定や,底屈(足関節が下方へ動くこと)しないように抵抗を掛けるようなものが多かった.しかし,従来型の装具では遊脚期の背屈が依然として不十分となるケースが存在した.また,これらの装具では歩行で重要となる踵ロッカー機能を考慮しているものが少なかった.踵ロッカー機能とは,踵接地から足底全体が接地するまで踵を軸に回転する機能のことであり,踵ロッカー機能を支援することは麻痺患者の短下肢装具処方において重要である.そこで,当研究室では人工筋肉により「高背屈と踵ロッカーを両立した高背屈支援RT」を開発している.


<研究内容>

システム構成

高背屈支援RTは,前脛骨筋の代わりとなるように,ガス圧式人工筋肉が膝とつま先を連結する形状になっている.足底に設置された圧力センサにより,足部の接地状況を検出し,歩行フェーズを判定できる.この圧力センサにより抽出された情報から歩行フェーズに合わせて人工筋肉の伸縮を制御可能となる.人工筋肉の制御は,制御部のマイコンにより電磁弁を開閉させて給気排気を制御することによりおこなう.

補足的な仕様として,ばねが人工筋肉に直列に連結されており,ばねにより踵ロッカー機能を効果的に支援できる仕組みになっている.

図 2 高背屈支援RT

歩行時のシステムの働き

遊脚期

足底全体が浮いている遊脚期には,尖足にならないように人工筋肉を収縮させて足関節を背屈(つま先が上方を向くこと)させる.人工筋肉で背屈支援を行うことにより高背屈を維持できる.

立脚初期

立脚初期では人工筋肉は収縮状態で維持する.しかし,健常者では踵ロッカー機能で足関節の底屈が行われており,引張ばねが伸張することでその底屈制御を可能とした.引張ばねを使用することで底屈抵抗を掛け,踵ロッカー時の床反力による急激な底屈を防ぎ,過伸展(膝が過剰に伸びること)を防止することが出来る.また,足関節を固定せず底屈を可能にすることで,膝折れ(膝が過剰に曲がること)を防止することが出来る.

立脚初期から後は人工筋肉が伸張し,立脚中期以降の歩行フェーズを妨害しない制御とした.


図 3 遊脚期での背屈

図 4 踵ロッカー支援


<期待される成果>

現在,脳卒中による片麻痺患者を対象に臨床試験を共同施設とともに実施している.また臨床試験では,高背屈支援RTを適応することによる歩容の改善に焦点を当て検証中である.今後はさらに実際の歩行リハビリ時に使用,検証することで,リハビリ効果の向上や歩容の再学習・誤学習防止のための新型装具としての使用が期待される.


参考資料

  • 保科智啓,岩田浩康,安田和弘,他:高背屈性とロッカーファンクションを両立させた人工筋肉駆動型背屈支援RT,Robomech2014,2014
  • 鈴木慈,保科智啓,岩田浩康,安田和弘,他:低剛性ばねによりケイデンスに対応可能な人工筋肉駆動型高背屈支援RT二号機の開発,Robomech2015,2015